ベテル
2022年9月27日
海外取引の苦労
石村:ビジネス上、海外との取引で大変だったことはありますか。
サーマルイメージングスコープ TSI
鈴木:いろいろとたくさんありますね。たとえば、こんなことがありました。熱物性計測器は、日本国内に納品したものは、まったくと言っていいくらい、ほとんど故障しないのですが、中国に納品したものは、なぜか頻繁に壊れてしまうんです。修理する際には、製品自体は日本に戻さないで、交換部品を日本から中国に送って、それを現地の代理店が交換・修理しているのですが、壊れたそもそもの原因が一向に分からない。現地のユーザーは、「ごく普通にクリーンルーム内で使用しているので原因らしいものに心当たりはない」と言うのだけど、現地の代理店から聞いた話によると、クリーンルーム内で使用しているはずなのに、なぜか装置の中は汚れで真っ黒になっていたとか、はたまた装置の中にゴキブリがいたという話も(笑)。そうなってくると、ユーザーが本当にクリーンルームの中で使用していたのか怪しくなってくるのですが、中国の代理店も同じようなもので、こちらの報告内容もあやふやでかなり怪しい(笑)。こちらは、ただ原因を究明したいだけなんですが、いろいろと質問していくと、いつもうやむやにされて終わってしまうんです。
石村:私も経験がありますが、中国人とビジネスでコミュニケーションを取っていくのはとても難しいですよね。
鈴木:そうですね。日本人と中国人とは国民性がまったく違いますね。決してどちらがいいとか、どちらが悪いとかの話ではないのですが、価値観が根本的に違っていますね。まあ、この故障については、原因は完全には分かっていないのですが、おそらく電源やノイズ等の関係で電圧が不安定になったからではないかと当社は推測しています。電圧が微妙に変わってしまうことにより、温度が上昇してしまったことが影響しているのではないか、と。実は、当社の技術者を中国に2週間ほど派遣して、故障の原因究明に当たらせたのですが、この派遣によって、当社は新たな視点で製品開発をできるようになったんです。
石村:新たな視点ですか。
鈴木:はい。日本国内では電圧が一定であるのが普通なのですが、世界に目を向けると、そういう国ばかりではないというのが現実です。日本国内だけで商売するのであれば電圧が一定で当たり前なので、電圧をあまり気にせずに普通に作ればいい。しかし、電圧が少しぐらい変動しても対応できる機器を作れば、故障も防げるし、何よりも販路を新興国を含めた世界にまで広げることができる。それに社員が気づいて、製品に対する考え方が変わったんです。当社としては、この故障の発生によって、かえって製品の品質を高めることができた、つまり鍛えられたと思って感謝しているんですよ。
石村:なるほど。発生した問題を、逆にプラスに転じさせてしまう。さすが開発型の企業さんですね。
Bethel Vietnam Co.,Ltd.
鈴木:あと、海外での苦労と言えば、これは当社のベトナム工場(ビンズン省)での話なのですが、日本人とベトナム人との気質の違いも強く感じますね。当社は、2013年(平成25年)にベトナム工場を立ち上げて、建材部品の量産品を製造、製品は日本に輸入しています。現在、社員は20名ほどなのですが、ベトナム人だけではどうにも上手くまとまらない。何も問題がないときは、彼らはみな真面目なので比較的順調に進むのですが、一旦問題が起こったときにベトナム人だけでは互いに管理ができないんです。期待をかけているベトナム人の社員に対して、ポジションを上げたり、給料を上げたりして、いろいろ工夫してみましたが、結局のところ上手くいきませんでした。これはベトナム人本来の気質に起因するのかも知れません。このため、今のところは、現地の管理は日系の企業に勤めていて定年退職した日本人の技術者に任せているのですが、ベトナム人の社員たちにも早く育ってほしいと考えています。
石村:国によって、国民の気質はまったく違いますからね。
鈴木:それで、私もちょくちょくベトナム工場まで足を運んで現地の社員たちを気にかけているつもりなのですが、言葉がまったく違うことによるコミュニケーション不足は否めず、目が完全に行き届かない海外工場を持つということは本当に大変なことだなあと思っています。
石村:中小企業さんが海外の工場を管理するのは大変なことです。
鈴木:ベトナムの工場はベトナム人の社員たちに任せられるような体制に早くもっていきたいですね。
今後の戦略
石村:今後の御社の方針をお聞かせください。
鈴木:今後の戦略としては、アメリカとヨーロッパに販路を拡げていきたいですね。特にヨーロッパには医療用プラスチック製品の輸出実績があるのですが、「サーマルマイクロスコープ」や「サーモウェーブアナライザー」の納品実績がまだありませんので、是非この製品の販路をヨーロッパに拡げていきたい。幸い、これからの新しいエネルギー源となりそうな将来性のある燃料電池など、熱が問題となる分野、熱が発生する材料類はたくさんあるので、当社が入り込めるチャンスはかなりあると思っています。
石村:やはり、「開発」という切り口で攻めるのですね。
鈴木:そうです。下請の仕事は数量が出るので安定しています。しかし、利益的にはあまり旨みはありません。一方、開発の仕事はアイデアから形にするまで長い時間がかかって大変ですが、社会に貢献できている面白みがありますし、何よりも夢があります。当社の夢は、イノベーションを起こして、世界中をハッピーにすることなんです。
石村:世界が求める「ベテル」になるわけですね。
鈴木:そうです。そのため、これからは社員たちにも国際感覚を身につけていってもらいたいと考えています。私たちは「開発」の仕事をしているので、新たな発見や新たな視点での発想が常に求められるんです。特に若い人たちはゲーム世代ということもあって、当社の若い社員たちの趣味を活かせるかもしれない新しい分野として「eスポーツ」の世界にも参入してみたいですね。また、ゲーム感覚で、たとえば、当社のベトナム工場まで出張を命じて、自分ですべて手配させて、自力でたどり着かせるような体験をさせる。どの飛行機に乗るにしろ、タクシーを使うにしろ、ルートにも一切の制約を設けない。とにかく自分で考え、自分の力だけで海外に出張してこい、といったこともしてみたいなあと思っています。
石村:ある意味、鈴木社長さんがアメリカの高校に放り込まれてしまった時のようにですね。
鈴木:そうですね(笑)。人は今までとは違った環境の中に放り込まれて、すべて自分一人で決めていかなきゃならない環境になると、おのずと創造する力や工夫する力が生まれてくるんです。とにかく社員たちの「考える力」を鍛えたい。会社としてはその若い人たちの考える力を伸ばして、それを会社の力に転換していきたいと考えています。
石村:それが、御社の経営理念「常に考えよ」や「経営の原点は開発にあり」につながってくるのですね。御社の活力の源がどこにあるのか、よくわかりました。最後に、御社は当機構の事業を利用されていますが、機構への要望等があれば、お聞かせください。
Medtec JAPAN2021に出展したときの様子
鈴木:今度、貴機構が実施している「いばらきチャレンジ基金」を利用して、ドバイで開催される医療展示会に出展する予定です。ドバイはかなり遠いですが、当社の製品がすでに納品されているヨーロッパには近いこともあって、今回のターゲットとして据えてみました。通常、1社だけ単独でドバイに出展するとなると、出展料や航空賃を含めて結構な費用がかかるのですが、助成金をいただくことによって出展が可能となったものです。そのほか、機構が茨城県ブースを設置している国内の展示会を含め、海外の展示会にも出展させていただいていますが、社員たちの感性を磨くためにもできるだけ多くの社員を送り込みたいと考えています。これも助成金が背中を押してくれるおかげなので、中小企業としては大変助かりますね。
石村:御社は当機構の「新技術・新製品開発促進事業」も利用されていますね。
鈴木:はい。歯科治療に使うツールを開発する際に活用させていただきました。こちらも助成金をいただいたことで、試作品の製作がスムースに進みました。全体として機構の事業には大変満足してます。これからもさまざまな側面から中小企業のサポートをよろしくお願いします。
石村:わかりました。今後も中小企業さんの支援に努めていきたいと思います。本日はありがとうございました。
株式会社 ベテル |
聞き手 |
石村:ベテルさんは部品の組み立てから創業し、今では開発型の企業にもなっています。産総研と熱物性計測器を共同開発し、また医療機器メーカーからの依頼で歯科治療用プラスチック部品の開発など、新規事業にもチャレンジするなど、自社製品の生産、販売、そして海外展開により収益力強化につなげています。一般のものづくり部品も手掛けており、その内容も金型製造からプラスチック射出成形まで幅広く、設備もCAD/CAMから最新の加工設備までずらりと揃っており、どのような要望が舞い込んできても対応することが可能な素晴らしい技術集団です。ことにODM(Original Design Manufacturing)ができる企業さんは中小企業では貴重な存在で、ましてや医療関連機器のプロダクトデザインから量産まで受託できる企業はそう多くはありません。
しかし、このような優れた企業さんであっても、海外との取引となると販路の開拓はそう容易ではなく、とにかく世界は広いので、どこにターゲットを置くのか、何をどのように売り込むのか、そしてどのようにアフターサービスを実施していくのか、常に情報を分析し、戦略を練っていかねばなりません。その点、ベテルさんは機構が実施している「いばらきチャレンジ基金」を上手く利用することで、企業単独での海外展示会への出展を実現しているほか、新技術・新製品開発促進事業で「歯科治療に使うツールの試作開発」に取り組んだりしながら常に前進を続けています。これらの活力が、このあとの日本におけるものづくり産業の巻き返しの原動力になると言っても決して過言ではないでしょう。
海外展開にチャレンジしてみたいとお考えの茨城県内の中小企業さんがいらっしゃいましたら、是非下記までご連絡ください。
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