公益財団法人 いばらき中小企業グローバル推進機構

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橋本ブラシ

2022年9月21日

  

海外への輸出

 

石村:取引先は主にどちらになりますか。

菅原:取引先は、日本全国にわたっています。海外への輸出もあります。

石村:海外はどのような国に輸出されているのでしょうか。

菅原:韓国、タイ、ベトナム等です。また、今はなくなっていますが、以前はハンガリーにも輸出していました。

石村:輸出することになったきっかけは何ですか。

菅原:以前から海外には強い関心を持っていたのですが、海外の市場に打って出るには一体どうすればよいのか、アプローチの仕方が最初はよく分からなかったんです。そこに2011年、東日本大震災が起きて、ジェトロから「被災地を応援する施策として、東北3県、茨城県、千葉県の企業は中国の広州交易会に無料で出展できますよ」というメールが届いたんです。それで、この際、海外市場というものを見てみようかなと思って、展示会に参加したんです。

石村:参加してみていかがでしたか。

菅原:初めての海外展示会だったので、いろいろと参考になりました。他県のメーカーに会えたのもよかったですね。そして、会場では中国と韓国の企業から引き合いをもらいました。

石村:海外の企業との初めての商談になったわけですね。

菅原:そうです。最初の商談相手は韓国のドリルメーカーでした。ドリルで穴を開けたあとを、研磨してきれいにするためのブラシを探していました。サンプルを提供するなどしながら、2012年にようやく成約して、半年から一年ほど取引が続きました。今は取引がなくなってしまいましたが、いい経験になりました。

石村:国外の企業との最初の取引は大変だったでしょう。

菅原:それはもう大変の連続でしたね。まず、当たり前な話ですけど言葉が通じない(笑)。お互いに通訳者を介したり、片言の英語を使いながら商談したりするのですが、微妙なニュアンスが全く伝わらない。お互いに「あなたは一体何をどうしたいんだ??」「あなたは何が言いたいんだ??」と「??」状態になってしまう。当社は規格品を販売しているのではなく、お客様の用途に応じてフルオーダーメイドで作り上げているので、そこがうまく伝わらないと話が先に進まないんですよ。それこそ、配列されている毛材の本数を2本にするのか3本にするのか、材質は何にするのか。洗浄用のブラシと一口に言っても、実は奥がとても深いんです。洗浄するにしても、ただ洗浄すればいいわけではありません。ここの部分をこれくらいの範囲、このくらいの強さで、どのように洗浄するのか、ただ研磨するのか、それともバリまで取るのか、扱っている製品や部品、洗浄度合いなどによってスペックが全く変わってきてしまいます。

石村:そのあたりの意思疎通の難しさが国内取引と大きく違うところですね。

菅原:そうです。国内では仕様の打ち合わせに1~2日くらいで済む話が、1週間以上かかってしまう。とにかく、しんどいなと思いました。そして、次にサンプルができあがって、それを送るとなると送料が発生しますよね。相手方は知ってか知らずか、送料のことにはあえて一切触れずに「とりあえず送ってくれ」とだけしか言わない(笑)。結局、こちらが送料を負担して送るしかない。こんなことを続けていて、本当に大丈夫なのか、利益が出るのか、途中でとても不安になりましたよ。でもどうにか、話がまとまって正式契約まで漕ぎ着けました。

石村:取引の決済はどのようにしたのですか。

菅原:代金先払いです。まず先方から入金してもらい、入金が確認されたあとに、商品を韓国に発送していました。

石村:そのあとの取引先はどのように見つけていったのですか。

菅原:それから、年に1~2回ほど、オートメカニカなど工業系の海外展示会に参加するようになりました。そして2年ぐらい、いろいろな国の市場を見て回って勉強しました。中国については、マーケットはとても広く魅力的ではありますが、当社にとっては商品の売り先ではないなと思いました。もちろん、当社は中国から材料を買っていますし、材料の仕入れ先としては、中国はとても有望であると考えていますが、ローカルの競合先も多く、国民自体の品質に対する認識も大きく違っているので、当社の製品の売り先ではないなと。

石村:なるほど。一方で、茨城県中小企業振興公社が2017年にタイのMETALEXに茨城県の共同出展ブースを設置したときには、真っ先に参加されましたね。タイは有望な市場だと考えていらっしゃったのでしょうか。

極小径ブラシ(外径Φ0.4mm)

菅原:はい。実は当時、当社としてそれまでいろいろな海外市場を見て、実際に海外の企業と貿易取引をしてきてみた結果、現地のローカルバイヤーに直接販売するのではなく、現地に進出している日系企業をターゲットに据えようと考えていました。当時、ちょうど国内において自動車部品メーカーとの商談がまとまりつつあったのですが、その商談の過程で、そのメーカーが世界に持っている海外工場にも洗浄用ブラシの需要があることに気づいていたからでした。しかし、日系企業の場合は、現地では生産の改善案の決定権がないので、最終的に国内本社へのアプローチも必要になってくるんです。それで、結局のところ、国内と国外の両面から攻めるのがよいのではないかと思って、現地の日系企業との接触を狙って、タイのMETALEXに出展したんです。

 

海外展示会からの展開

 

石村:日系企業であれば、日本国内で営業をかければ済むのではありませんか。

関西機械要素展(茨城県ブース)

菅原:もちろん、そのとおりです。しかし、私たちは中小企業です。日本国内には山ほどメーカーさんがありますが、私たちのような中小企業者が大手メーカーさんを直接訪問して営業しようとしても、受付で門前払いされるのが落ちです。日本国内には競合する中小企業もたくさんありますから。なので、私たちは大手メーカーさんたちの方から見つけてもらうしか、商談のきっかけを作る手立てはないんです。なので当社は、国内の商談会や展示会に積極的に出展しているのですが、とりわけ海外の展示会は目立ち度が違います。

石村:海外の展示会の方が効果が高いのですか。

菅原:はい。例えば、当社の取引先である国内の大手メーカーでは、国内工場と海外工場の事業部がまったくの別部署となっており完全に分かれていました。このため、海外工場の事業部署にはなかなか手が届かなかったのですが、当社がタイの海外展示会に出展したことで、会場を見に来ていた海外工場の担当部署の方と知り合うことができたんです。これは大きな前進でした。それで、今ではその大手メーカーさんには、国内工場のほか、タイの工場でも当社の商品を使っていただいています。

石村:なるほど。海外の展示会に出展するということは、日本国内の同業者よりも頭一つ抜き出て目立つことができるというわけですね。

菅原:そうです。もともと、数年にわたって洗浄用ブラシの海外市場を調査した結果、日本製品はローカル企業の製品よりも安定性があるため、そう簡単にはローカル企業の製品に切り替わることはないだろうと感じていましたから、あとはどうやって大手メーカーさんと知り合うことができるか、ということだけだったんです。

石村:海外展示会に出展するということは、最善の販路開拓策だったのですね。

菅原:最近は海外工場向けの納品が増えてきており、ありがたい限りです。また、さきほど、中国は売り先ではないと感じたと話しましたが、近年は大手企業における「チャイナプラスワン」への動きが加速しているように見えますので、当社としてはその先の国を捉えたいと考えています。その意味でも、情報をいち早くキャッチできる海外展示会の存在はとても大きいのです。

石村:海外展示会において、日系の商社と共に出展していますが、これはなぜですか。

バリ取りブラシ

菅原:ものづくり企業が製品を輸出した際に最もネックになるのは、製品にトラブルが起きたときの対応です。装置の一部に組み込まれているブラシといえども、万が一、トラブルが発生したとなれば、売主である当社としては対応せざるを得ません。しかし、中小企業としては、トラブルが発生したからといって即対応で海外に出張して対策を取ることは難しいんです。費用も、時間もかかりますから。それで、あらかじめ商社を商流に組み込んでおいて、販売とアフターサービスを含めてすべて現地で対応できるようにするためです。

石村:ものづくり企業としては、製品のアフターサービスは必須ですからね。

菅原:日系の商社であれば安心ですし、取引先を探すにも、ローカルの企業を一つ一つ当たっていくより、商社とタイアップして探した方が早いですからね。

 

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