公益財団法人 いばらき中小企業グローバル推進機構

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月の井酒造店

2022年3月24日

 

海外への輸出

 

角掛:現在の主な取引先を教えてください。

坂本:取引先は、地元の酒屋さんを中心に東京都内のほか、北は北海道から南は沖縄まで納めさせていただいています。また、海外に輸出もしています。

角掛:いつ頃から海外に輸出しているのですか。

坂本今から10年ほど前、当社がオーガニック日本酒「和の月」を開発したことが大手新聞の全国版に掲載されたんです。それで、香港に輸出している神戸の貿易業者がその記事を見て、「この商品を輸出したい」と電話で連絡があったのがきっかけでした。「今まで輸出した経験がないので、手続きの方法がわからない」と話したところ、その貿易業者に「輸出の手続きはすべてこちらでやるので、国内取引と同じように出荷してくれればいいから」と言われたんです。本当にそれで輸出できるんだろうか?大丈夫なんだろうか?と思いつつ、おそるおそる出荷したのですが(笑)、これが当社にとって栄えある輸出第1号となりました。日本酒の売り先として、日本国内だけでなく海外という市場もあるんだなと感じた瞬間でした。

角掛海外市場にも可能性を感じたわけですね。

坂本でも、実はそれからが大変だったんです。当社の日本酒は確かに海を渡って香港に着きました。でも、現地で売ってまわるのは当社だってことがわかったんです(笑)

角掛香港のバイヤーが販売を担当したのではないですか

坂本もちろん、神戸の貿易業者も、現地のバイヤーと組んでいろいろと積極的にサポートしてくれました。しかし、当社の日本酒は香港ではまったくの無名なので、そう簡単には売れません。それで、貿易業者の人と一緒に香港に何回も渡航して、とにかく試飲会を企画したり、現地百貨店に直接営業をかけたりしていきました。金曜の夜に日本を出発して日曜の夜に帰ってくるような、それこそ弾丸ツアーのような感じで(笑)。貿易業者の方も「最初が肝心だから頑張りましょう」と言っていましたし、こちら側としてもすでに乗りかかった船なので途中で諦めるわけにもいかなかったんです。

角掛海外で販売することは大変だったでしょう。

坂本はい。輸出するときにあまり深く考えていなかっただけに(笑)、海外で商品を販売することの厳しさを思い知らされました。でも、それらの営業活動が実り、次第次第に当社の日本酒が香港で認められるようになっていきました。それ以後は、香港のバイヤーとの絆はかなり強固なものとなって、現在のコロナ禍にあっても安定した量が出荷されています。

角掛慣れない海外での営業はかなり大変だったかと思いますが、ご自分で動かれたことが、今も輸出が継続していることに結びついているのだと思います。そのほかは、どのような国に輸出しているのでしょうか。

坂本アメリカ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、台湾、ドイツ、フランス、イタリア、オランダにも輸出しています。

角掛それらは、どのように開拓していったのでしょうか。

坂本最初は知り合いの伝手を使って紹介してもらうなどしながら輸出先を徐々に増やしていきました。ヨーロッパについては、ドイツのルフトハンザ航空のファーストクラスに当社の日本酒と梅酒が採用になったのがきっかけでした。当社は都内のとある外資系ホテルに商品を納めていたのですが、そこのシェフが航空シェフを務めていたことから当社のお酒をルフトハンザ航空に推薦してくれたのです。聞いたところによりますと、当時のドイツは味を最重要視しており、当社の日本酒と梅酒の味が評価され、最終的に採用に至ったということでした。このように海外市場は、国内と違って、同業者や酒販会社とのテリトリー争いがなく、味さえ認められれば比較的自由に営業活動ができる場だったんです。

角掛海外市場は、まさにブルーオーシャンだったわけですね。

坂本でも、その一方で、海外営業は当社のような小さな酒蔵にとって課題も多かったです。渡航費はたくさんかかりますし、商取引の交渉や販売にあたっての通訳など、言葉の問題への対応も不充分でした。

 

施策を活用して海外で営業

 

角掛:それで、どのようにしたのですか。

坂本海外に詳しいJETROや当時の茨城県中小企業振興公社が実施していた海外展開事業を活用しました。

角掛具体的にどのような事業を活用されたのでしょうか。

坂本2015年(平成27年)に茨城県中小企業振興公社が実施していた「いばらき産業大県創造基金事業」を利用して、ニューヨークで開催された日本酒の展示会に出展しました。アメリカは飛行機代や滞在費がとても高くてなかなか行けないのですが、費用の一部を助成していただいて、現地のバイヤーや飲食店、酒販店をまわって売り込みを行うことができました。

レストランでのディナーイベントの様子

(ベトナム・ホーチミン市)

また、成約に至った例で申しますと、茨城県のベトナム向け輸出事業が挙げられますね。2016年(平成28年)に茨城県がベトナムのハノイにアンテナショップを開設したので、まずはそれにエントリーしました。そして、当時の茨城県中小企業振興公社の海外渡航費補助を受けながら、現地に渡航してレストランを回ったり、商品テストを兼ねたディナーイベントに通訳を付けて企画してもらったりと、いろいろと営業して回りました。
その甲斐あって、ようやく当社の日本酒を認知してもらえて、純米酒ほか3種類のお酒が高級日本食レストランで本採用されることになり、最終的に現地のディストリビューターで扱ってもらえることになったんです。

角掛その時は、オーガニック日本酒が採用されたのですか。

坂本残念ながらオーガニック酒ではありませんでした。ベトナムでは日本酒自体のシェアがまだまだ低く、通常の日本酒より高価な差別化したオーガニック酒の需要はあまりなかったんです。でも、実は、当社の日本酒が現地で採用されたのは「オーガニック」がキーワードになっていたんです。ベトナムはフランスによる統治時代が長かったこともあってカフェ文化が広く根付いていて、街中の至るところにカフェがあるのですが、当社の日本酒を採用してくれたベトナム人の女性オーナーは、日本食レストラン以外にもカフェを9店舗ほど経営していたんです。競合するカフェがひしめいている中、そのオーナーは「オーガニックのコーヒー豆」を差別化の手段として用いていたこともあって、それでトントン拍子に輸出までの商談が進んだんです。それで今でも、ベトナムは海外輸出の中で最も大きい比率となっています。

角掛:そのほか、大口の海外取引先はありますか。

Food Japan 2016に共同出展したときの様子

(シンガポール)

坂本:マレーシアもかなりの量が現地に行ってます。マレーシアについては、2016年(平成28年)に茨城県中小企業振興公社がシンガポールの「Food Japan 2016」に設置した共同ブースに出展した際に、当社のブースに立ち寄ったマレーシアのバイヤーと名刺交換をしたことが取引のきっかけとなりました。後日、先方から改めてコンタクト希望の話がきたので、当社の専務がマレーシアに飛んで現地で面談しました。それからしばらくして、そのバイヤーが日本に来た際には、当社の酒蔵を見学してもらうなど、お互いをよく知り合ったことで信頼関係を築くことができ、シンガポールの展示会から1年くらいかかってようやく成約しました。今では毎年、コンテナ単位で「彦市」を輸出しています。

 

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